有限と無限の間

真の生きる道を模索中。

地元

実家に長く滞在している。

私が幼稚園に入る前に引っ越してきて、25歳で海外に行く前まで住んでいた。所謂地元ってやつだ。

東京近郊のベッドタウンとして栄えていった我が地元であるが、私の幼いころは、まだまだ田んぼが広がり、森が生い茂り、野兎も野雉もいるような野趣あふれる土地であった。

今は再開発が進み、あんなに生い茂っていた緑々していた森も伐採され、ショッピングモールが建設され、マンションや戸建ても続々立ち並び、私の知らない地元になっていった。〇十年前、引っ越してきた当初、私たち家族はこの土地で新参者であったけれど、逆に今は古参の住居者になり、新しい移住者が昔の我々のように住み始めている。

それだけ私も私の親も歳を取ってきたことを感じる。

 

運動も兼ねて近所を散歩することを日課にしている。

小さいころ友達と遊んだ公園や、追いかけっこをした坂道、咲いている名もなき花や草、どれをとっても懐かしい。

 

同級生のお父さんに見かけた。私は気づいていたのだけれど、気恥ずかしくて通り過ぎようとしたら、同級生のお父さんが話しかけてくれた。

「あ、やんちゃん」

「お久しぶりです、おじさん。お元気ですか?」

やんちゃんと呼ばれると、一気に脳みそが昔の情景でいっぱいになる。小さい頃からの知り合いは私をやんちゃんと呼ぶ。大人になった今はあまり呼ばれなくなってきた。

「元気だよ。〇〇は今大阪にいるよ」

おじさんの娘、そして私の幼馴染である友達の近況を教えてくれた。もうだいぶ会っていない。

おじさんは昔の面影はもちろんあるけれど、頭も眉毛も真っ白で顔には濃い皺があり、やはり歳を取ったのを感じた。うちの両親だって歳を取ってるのだから、友達の親も歳を取るもんだよなと妙に納得した。

おじさんは笑うとますます皺が濃くなってくる。でも変わらず愛嬌があって、友達ともどことなく似ている。

「ここらあたりはみんな歳を取った人ばっかりだけど、再開発のところは若い人ばかりだよ。」

「再開発のところは、本当にすごく発展してますよね。」

「そうそう、すごいよね。」

私の地元も過疎化が進んでるようだ。

たぶん我々、私たち家族と友達家族が引っ越してきたころは、もっと昔から住んでいる地元の人から同じようなこと言われてたんだろうなと思いながらおじさんの話をきいていた。

ここで急に雨がぽつぽつ降ってきた。正直助かったなと思った。友達ならともかく、友達の親と長く話せるだけのコミュニケーションスキルを私は持ち合わせていない。退散するチャンスを得た。

「あ、雨ですね。すいません。ではここで失礼します。おばさんにも〇〇ちゃんにもよろしくお伝えください。」

私はいっぱしの大人みたいに別れの言葉を告げた。もう私は大人であるけれど、幼い私をよく知っている大人であるおじさんは、私が小さな頃からもう既に大人であった。そんなおじさんにいっぱしの大人の会話をすることが、己がもう小さい子供でないんだということを強く感じた。

おじさんと別れてから私は実家に向かって歩いていった。散歩は諦めた方が良さそうだ。

実家に戻る途中に雨はすぐ止んでしまった。しかし、雲は重くて、湿気をいっぱい含んでいる。また降りそうな予感。

とりあえず実家に着いたら洗濯物を取り込まなくてはいけない。テニスに出かけている母から雨が降ったらすぐ取り込むよう言われていたのだ。

雨は止んでしまったが、取り込んだ方が賢明であろう。母と暮らしていた頃の私が私に呟いた。洗濯物がパリパリに乾くことを何よりも望む母。そうだ、そうだ、怒られないためにもさっさとやっておこう。私は子供の頃と同じように実家に着くや否な急いでベランダへ向かい洗濯物を取り込んだ。

やはりどんなに大人になっても母からどやされるもは嫌なのであった。